【旅の絵本】安野光雅
福音館書店
あとがきから
『道はどこまでもつづいておりました。丘を超え、川を渡り、果てもない緑の牧草地に添っておりました。いたるところに森や泉がありました。森には鹿が住み、流れにはマスが泳いでおりました。
街道を外れたところに、人家が固まり、集落ができておりました。このような市(まち)へ入るときは、きまって市の門をくぐるのです。そこには、いくつかの店が軒を並べ、必ず広場や教会があり、城があるか、もしなかったとしても、市全体が一つの城でした。だから、そこは、私にとって一つの国のように思えました。
そのような、市から市、国から国へ、迷いながら、はるばる旅をしました。あまり困ったときなどは、旅に出たことを後悔するほどでありました。しかし、人間は迷ったとき必ず何かを見つけることができるものです。私は、見聞をひろめるためではなく、迷うために旅に出たのでした。そして、私は、この絵本のような、一つの世界を見つけました。
それは、公害や、自然破壊など、誤った文明に侵されることなく、どこまでも緑のつづく、つつましくも美しい世界だったのです。
1977年1月20日 安野光雅 』
迷わないよう一生懸命な私にとって、「迷うために旅に出る」とはなんと痛快な言葉なのだろうと、メモでした。